636の備忘録

備忘録 印象深い日々の出来事や、気付き等を記す

本の感想「戦後日本経済史」

 

●概要

☆本との出会い

ライフネット生命社長の岩瀬さんによる「社会人一年目の教科書」に、社会人の教養として読むべき一冊と推薦されており、ブックオフでたまたま見かけたので買ってみた。


☆著者
野口悠紀。
1964年に大蔵省に入省し、在職中にイエール大学で経済学の博士号を取得。
現在は経済学の分野で大学教授を務める。

 

☆論旨
高度経済成長、バブル崩壊、その後の日本経済のプレゼンス低下…
なぜ戦後の日本経済は一度隆盛を極め、現在は衰退してしまっているのか?
この本では、その原因を「WWⅡ中に構築された戦時経済体制」が
現在に至るまで日本をガチガチに固めているからだと主張している。

というのも、
一般的な見解では、戦時下の経済体制はGHQにより解体・改新されたと考えられているが
GHQの影響力は表面的なものに留まっており、根本の実態は変わらなかったのではないかと著書は考えている。

大蔵省で日本経済の中枢を内側から見た経験と
海外で経済学を学びグローバルな目線から日本経済を俯瞰した経験を
併せ持つ著者だからこそ、見えてくる視点で日本経済の未知の一面が描かれる。


●感想

すごい面白かった。

日本語の表現力が多彩で、
更に事実や分析だけでなく著者自身の心情も交えて記述されているため
決して小説ではないのに関わらず、登場人物に感情移入したり、自分がバブル時代に生まれていたら、どう生き延びただろうか?と想像をめぐらしたりと
教養が深まる面白さ+読み物としての純粋な面白さを同時に味わいながら読み進められた。

難しい用語はそんなに出てこず、また出てきた際には丁寧に解説されているので、高校である程度日本史を真面目に受けて、日ごろ新聞やニュースに目を通している人ならば、サクサク読めると思う。

また、以前読んでいた城山三郎の「官僚たちの夏」のモデルとなった人物と著者が通産省の面接で関わり合いがあったエピソードを発見したときには、点と点が繋がった嬉しさがあり静かに興奮してしまった。

 

以下に、特に印象的だった話題をあげておく。

・GHQの財閥解体の効力は大したことなかった説
…財閥の構成要素は1.同族経営 2.市場の寡占化 によるものであり、GHQによる財閥解体によって1.同族経営に関しては解消されたものの、銀行中心の間接金融の経済体制は戦前と変わらず、財閥のグループ企業による市場支配も継続され、2.市場の寡占化については戦後も引き継がれた。
さらに、財閥の同族経営解消は終戦前から三井系ではすでに実施された方策であった、具体的には、三井家と経営専門集団化には軋轢があり、三井財閥で実験を握った池田成彬は1936年までに三井高公以外の同族をすべて引退させ、「三井家はあらゆる事業から名前を没し、三井という名は社会公共事業や慈善事業といった方向にのみ用いればよい」とした。

このように、GHQの財閥解体は日本経済の本質の改変にまで迫れなかったし、同族経営解消はGHQがテコ入れしなくても、勝手に進んでいた流れだったと本では主張されている。

 

・GHQの公務員改革は語学力に左右された説
公職追放された軍以外の官僚は、内務省がほとんどで、大蔵省では総勢9名にとどまり、戦時中の人事がその後も連続した。というのも、占領軍が考えた当初の解体対象は内務省・大蔵省・文部省だったのだが、大蔵省は巧みな英語使いの折衝によって解体を免れ、一方で内務省は内政メインのため英語を使える人が少なく、交渉がうまくいかなかったのだと言う。
また、戦後異例の超スピードで軍需省からか名前を変えた商工省は解体のターゲットにもあげられなかったそう。

このエピソードの他にも、日本語と英語のあまりに大きな言語の壁により、官僚たちがいかに上手く立ち回りGHQの介入を回避していたかが描かれている。

私のイメージでは日本は敗戦国としてGHQに徹底的に改革されたんだと考えていた

けれど、この本では、言語の壁・思想の違い・官僚たちの折衝力によって、実態は戦時下の体制・信条がそのまま引き継がれていたのだと書かれており、非常に新鮮な視点だった。

 

田中角栄の人心掌握術
…著者の野口さんが大蔵省に入省した当時、大臣を務めていたのは後の総理大臣田中角栄だった。
その入省時の訓示で述べられた一言は「諸君の上司にはバカがいるかもしれん。意見を理解してもらえないときは、遠慮なく大臣室に賭けこめ。おれが聞いてやる。」であり、この挨拶を聞いて著者は一瞬で心をつかまれたと記述している。
当時の田中角栄は45歳で大蔵大臣に就任したが、これは史上最年少であり、真にカリスマ性のある人であったそう。日本列島改造計画により、まだ自動車など普及していなかった時代に、道路を日本中に整備した先見の明も称えられている。
こういった記述から、野口さんは田中角栄のことをよほど尊敬しているのだと感じられる。


…ここまでは、本の冒頭で語られた話題であり、高度経済成長やバブル経済等のディープな話題がのちに続いていく。
ただ、まだ自分の中に消化できていない部分が多いので、ひとまずはここで一旦備忘録は止めておく。

このまま放置すると本で読んだことを忘れてしまいそうなので、時間に余裕があればもう一度読み直して、「戦後日本経済史その2」を書きたい。