本の感想「LOVE理論」
本の感想「帰ってきたヒトラー」
○概要
現代にタイムスリップしたナチス指導者ヒトラーが繰り広げる、コメディ風刺物語。
敗戦し、自殺間際の彼は、ある日気が付くと2011年のベルリンにタイムスリップしてしまった。そしてヒトラーの物真似芸人と勘違いされ、お笑い番組に出演する。ヒトラーは大まじめにナチ主義を主張するのだが、視聴者はそれをアンチ・ナチ主義の下の皮肉ギャグとして受け取り、それが大ウケする。カリスマ性のある彼に大衆は魅了されていき、ヒトラーは現代社会でもスターへと躍進していく。
○感想
これはかなり面白かった。
世界史はあまり詳しくないために、作中のナチスの幹部陣の名前等がすんなり入ってこなかった点は煩わしかったものの、時に笑いながら、時に考えさせられながら、サクサク読めた。
ヒトラーはコロホーストに代表される「冷血」「極悪」といったイメージだが、そんな残忍な彼が何故ドイツ国民の人気を博し、選挙で選出されたのか。そして、何故あんな殺戮政策をとったのか。それらの疑問に対してこの小説は、ヒトラーの人間臭く魅力的な内面を描くことで、一つの解釈を与えてくれる。
高校生くらいの知識があれば十分楽しめる内容だと思う。
これまで歴史の勉強や本を読んできた中で常々感じてきたのは、「勝者が正義」ということで、ヒトラーにおいても該当するのだなと感じた。
というのも、歴史は勝者によって紡がれるものだから、敗者のドイツ・日本・イタリアたちの指導者は悪者として記される。
ヒトラーはユダヤ人を虐殺することが目的だったのではなく、戦争で勝つための戦略の手段だったと思う。(これまでの拙い知識で判断しただけで本当のところは分からないが)
そしてホロコーストの残忍さは想像もできないくらい酷いものだと思うが、ヒトラーだけでなく世界の至る箇所で弱者への圧政は実施されており、例えばアメリカにおける黒人奴隷や先住民への侵略や、中国における数々の政権交代で犠牲となった一般大衆等、枚挙にいとまがない。
それなのに、何故ここまで言われているのかというと、その理由は戦争からまだ数十年しか経っていないことと、もう一つ、やはりドイツが敗けたことが大きいんだろうなと感じた。
本の感想「新世界より」
○概要
貴志祐介著
1,000年後の未来の地球を描いたSF小説。人々は呪力と呼ばれる超能力を保持し、その呪力を日々の生活や仕事に活用し、超能力と密着した生活を送っている。この世界の生物の中には1,000年後とは考えられないハイスピードで進化している生物が多く、中でも化けネズミと呼ばれる種は、ハダカデバネズミが人間ほどの大きさに巨大化・高度な知性を持っており、人間の召使として清掃等の労働に従事するほどである。
この世界は非常に平和で、人々の争いは発生せずに、教育レベルも高く、皆が幸せに暮らしている。物語の主人公・早季たちも平凡な子供として暮らしていたが、ある課外学習がきっかけで、偶然にこの世界がいかに不安定で残酷であるか、その一端を知ってしまう。
やがて引き起こされる世界の崩壊に、早季たちは子供ながら立ち向かってゆく…
○感想
かなり長い本で、文庫本で上中下の三部作。ハリーポッター1巻分くらい。普段SFは全く読まないが、あまりに面白くて一気読みしてしまった。戦闘シーンなどでは心臓がドキドキしたし、その日夜道を歩くのが非常に怖くなってしまった。それくらいハマった。著者の貴志さんはホラー小説家のようで、読者のハラハラドキドキを煽るのはお手の物なのだと思う。
SFといっても、宇宙船や地球外の惑星が出てくるわけではなく、まるでドラクエのモンスターのようにおかしな生物がたくさん出てくるくらいなので、ガンダムや宇宙戦艦ヤマトを読んだこと無い私でもすんなり読み進めることができた。
また、物語の中核テーマとして、独裁主義と民主主義、自由と束縛、正義と悪等、今の私たちが暮らす社会が抱える倫理問題を射影し、読者に問いを投げかけるので、単純な娯楽小説よりも読んだ後の充実感が高い。
そして伏線の用意・回収が分かりやすくて読みやすいところもお気に入り。ささっと読み進めても十分話の展開についていけるし、小学生でもこの物語の魅力を味わえると思う。
ただ少々長すぎるというか、伏線っぽく書かれているのに結局回収されないままのエピソードがあったり、世界の設定の説明で冗長な部分があったりして、もう少し短くできたのではないかなと思う点はある。
全体としては本当に面白いので周りにぜひ薦めたいい小説。